羽田空港はオリンピックのボトルネックなのか

29.01.2016

Photo: Passenger Terminal Today

 

私用で日本と上海の間を頻繁に往復して気がつくことがある。それは東京と上海の空港事情が似ているが明暗がはっきりしているということである。人口1300万人の東京と2400万人の上海市は、どちらも増え続ける航空旅客数に対応するため、手狭になった中心部の空港を国内向けとして離れた地域に新規に国際空港を建設した。

 

 

浦東国際空港は中国版成田

上海の中心に近い上海虹橋国際空港(注1)が手狭になったが、周辺が住宅地域であることから拡張ができず、中国政府は市内から30kmの距離にある海に面した工業団地浦東地区に浦東国際空港を建設した。浦東国際空港の規模は滑走路4本を有する24時間空港という点でも共通する部分が多いが、こちらは当初から3,400m4,000m滑走路ペア2組(同時着陸のできない「クロースパラレル型」)であるものの、運用キャパシテイの点では成田(注2)に大きく差をつけている。

 

(注1)国内線ハブでありながら国際空港でもある虹橋の使命は羽田空港に近い。また国際線の集中する浦東国際空港が日本の成田空港に対応するが、空の玄関口から市内へのアクセスは(地下鉄やリニアもあるが一般客の利用が多い)タクシーで1時間は見なければならないという不便さにおいても、国際・国内を棲み分けた2空港間の行き来が不便である点においても状況が極めて似ていると言えるだろう。

 

(注2)成田の4,000m級滑走路は1本で、それと平行な2,500m滑走路1本体制は東アジアのハブ空港に比べて運行キャパシテイが見劣りする。また国内線乗り継ぎ客の羽田への移動が不便で一国の玄関口としてはふさわしくないと言わざるをえないが、政府の強引な建設計画によって至便性を犠牲にして国際空港が誕生したが、政権が交代して2009年に政府方針が変更されてから羽田が東京国際空港に返り咲いた

 

 

成田から羽田へ方針転換

至便性の良さから再び羽田空港を東京国際空港として復活させた政府の方針転換は東アジアのハブ空港に旅客を奪われた現実に即したものだったが、拡張性が低く夜間着陸などの制限の多い羽田には限界があり、相次ぐ拡張計画で4本の滑走路と3つのターミナルを備えるまでになったものの、依然として離発着枠の大幅な増大が見込めない状態が続いている。

 

 

Source: Tore Opsahl

 

進まない2国間交渉

空のTPPとも言える「オープンスカイ協定」の一環として米国エアライン各社は羽田離発着陸枠の獲得を望んできた。しかし2国間交渉が遅々として進まず、デルタ航空など一部のエアラインは焦りを隠せない。特に以前からデルタ航空に吸収合併したノースウエスト航空は古くから羽田に乗り入れてきた経緯があるにも関わらず羽田離発着枠の獲得が思うようにいかないため、成田空港から撤退し日本初米国行き便を大幅に減らしてしまう可能性がある。

 

 

実際に成田発上海行きデルタ便は出発時刻と到着時刻が不便な夜の時間帯である。デルタ航空は成田空港をハブとして展開する戦略できたため、羽田離発着便の獲得ができなければ乗客数が減少の一途を辿るであろう成田に居残るメリットはない。結局、上海路線や北米路線など利用客の多い路線が消えかねない。

 

こうなったのも日本政府が(当初の計画を変更することをためらい)成田と羽田の両面作戦を展開しようとしてきた優柔不断さにある。上海の2空港は一応国際空港ではあるが、基本的には市内に近い国内空港(虹橋)と遠くて不便だが離発着に制限の少ない国際空港(浦東)の棲み分けが成り立っている。成田はこのような棲み分けを狙ったはずだったが建設工事反対で滑走路の拡張に遅れを取っている間に、ハブ空港へのパラダイムシフトが起こった。

 

 

不便な国際空港は成田だけではない

正直、浦東国際空港からリニアに乗れば430km/h(最大速度)であっという間に市内の近くに移動できるのだが、ここから市内各所に快適に移動しようとすればタクシーになる。安全面から筆者は地下鉄には乗らない。タクシーとなれば市内に近いほど拾うのが困難になり、リニアの乗車賃を考慮すると浦東国際空港から、直接タクシーに乗る方がはるかに便利である。(成田空港から都心までタクシーに乗るのとは料金は雲泥の差で安い)タクシー料金のアドバンテージのせいで上海市内と30kmにある浦東と都内から高速で52kmの成田では上海の方が断然有利である。成田には京成ライナーなど鉄道の選択肢もある。しかし重いキャリーバッグを持つ場合や通勤ラッシュにかかれば快適なアクセスではない。

 

ともあれ国内線乗り継ぎと都心への乗り継ぎで残念ながら政府の思い入れに反して成田の発展性はほとんどない。一方で成田は高速道路で関東全域と東北、裏日本、中部、関西へのアクセスもできるため貨物ハブとしての潜在能力は高い。24時間オープンの貨物ハブ空港の将来性は高いと考えられるが、実際に成田貨物量も急ピッチで伸びているようだ。

 

Source: Wiki

 

羽田の限界は拡張性のなさ

一方、羽田空港の問題は、騒音問題で都心部を低空で飛べない事にある。午前中は東京湾からアプローチするので問題ないが、午後は都心部からアプローチすることが多いので離発着の間隔を詰められない。空港周辺で大型機が急上昇、降下するため間隔があけられないことは離発着枠拡大に最大のネックとなる。特にA380のような大型機の後は気流の乱れが大きく、後続機に影響するので間隔は短くできない。


キャパシテイを増やすには同時に並行離着陸できる米国のJFKやシカゴ・オヘアのように平行滑走を複数本作り同時に離発着させるしかない。しかし平行滑走は離れたところにつくられていて有効率をあげて離発着枠を拡大する障壁となっている。またメデイアでは取り上げられることがないが、航空管制における横田基地の存在も陸側からのアプローチに制約を加えていることは事実である。

 

 

失敗だった国際空港戦略

厳しい事を言えば最初の設計が拡張を前提にしていなかったのが原因と思われる。当時は空の旅は高価で需要が増えて拡張しなければならなくなるとは当時考えられなかったのかもしれない。現在の羽田空港のレイアウト(上の図)ではこれ以上の拡張は難しいと言わざるをえないが、国際ハブ空港として機能するにはキャパシテイが不足していることは明らかである。もし成田空港が奥まった陸地でなく木更津の海岸沿いにあれば、両空港を結ぶのも簡単で拡張性は格段に良くなっていたのだろう。成田空港建設を住民の反対を押し切り政治的判断で強行したことの代償は大きかった。

 

ただし日本だけが至便性の悪い空港事情を抱えているわけでもない。上海で浦東から虹橋へのバス

移動は苦痛であり、またパリでもシャルルドゴールからオルリ、ロンドンのヒースローからガドウイックへの移動はそれより少しマシだがそれでも快適とはお世辞にも言えない。空港ほど拡張性と先見性が必要になるものはないのかもしれない。

 

一番上の写真はロンドンが計画している「浮かぶ空港」である。日本の誇るメガフロート技術を使えば関空のように埋め立てしなくとも浮かぶ空港の建設は可能だろう。羽田の限界を認識したなら(オリンピックを契機として)抜本的なソルーションに向かって歩き出さなければならない。