リチウムイオンバッテリーの危険性

24.10.2016

Photo: illawarramercury

 

サムスンの自信作であったGalaxy Note7は発火事故が相次ぎ回収に至っている。エアラインの徹底ぶりも今までに無い厳しさで、搭乗客は離陸に先立って電源を切った上で乗務員に預けなくてはならない。バッテリーを抜いて本体だけを携帯したユーザーは取り出すときに、発火させてしまった。しかしラグジュアリー端末であったはずのiphone7でも発火事故が相次いでいる。リチウムイオンバッテリーにどのような危険性が潜んでいるのだろうか。

 

後者の場合はサーフインのため1週間前に購入したiphone7を車内に置き、戻ってくると車内が燃えていた。この事故についてアップルからのコメントはないがGalaxy Note7と同じリスクを抱えていることが明らかになった。下の写真の中で一番大きい部品の黒い箱がリチウムイオンバッテリーである。軽量小型化が売り物のスマホの中で最も重量と容積の大きい部品である。

 

 

Source: Skynews

 

そのため各メーカーとも使用時間を延ばすための大容量化と小型軽量化という矛盾する要求に苦心する。ここに意外な危険性が潜んでいる。なぜならリチウム金属は反応性が高いアルカリ金属で漏れ出して出荷した高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウムと同族である。水と反応し発火する。こういうもともと危険性のある金属を使っているところに基本的なリスクが潜んでいる。

 

 

Source: Univ. of Washington

 

リチウムイオンバッテリーの動作原理は上図に示すようにリチウム金属イオンを利用した化学反応電池である。動作中は陰極のリチウムがイオン化されて電子(電流)を発生させる。そのリチウムイオンは電解質中を反対側の正極に引かれて動いていき負荷を経た電子を取り込んで、再び中性金属原子となる。リチウムイオンの直径は小さいので仕切り膜を簡単に通り抜けることができる。このため電極間を近づけることができ高電圧を発生できて、同時に電池を小型化できることになる。

 

またリチウムは軽く仕切り膜も高分子のため全体を軽く小さくできる。3拍子揃った優れた特性のため軽量小型化が生命線であるPCや端末、そして最近ではEVになくてはならない構成要素となった。実際、航続距離の長いテスラ社のEVにはパナソニックのPCバッテリーが数千個使われている。(テスラ社のEVも車輛火災を起こしているがバッテリー部の火災ではないことがわかっている。)

 

ところでリチウムイオンバッテリーの正極にはコバルト酸化物が、また陰極には黒鉛が使われているが、後者は空気中でよく燃える。そのためリチウムが発火剤、黒鉛が燃料となり、事故が起きると危険な火災につながる。最近の例ではボーイングドリームライナー(787)のバッテリー発火事故を起こしている。(注1

 

(注1)充電制御の電気回路(正確には一部の部品)の不良によるものでバッテリーメーカー(ユアサ)の責任ではなかった。リチウムイオンバッテリーが充電中の過熱や衝撃で起きるリスクをスマホ所有者は自覚すべきである。正規品でないバッテリー・チャージャーを使うべきではない。高温になる条件に置いたり、衝撃を与えるなどの動作も危険である。

  

Source: extremetech

 

リチウムイオンバッテリーの事故で最も多い過熱による各部の変化は上図のように正極の分解が起こると酸素を発生し、陰極の黒鉛が燃料となって火災がひどくなる。電極の接触を防ぐためにある膜も火災になれば無力である。なお火災が起きても電気火災用の消火器を使わなければならない点に注意したい。小型軽量化によるリスクを知る必要がある。