金融緩和政策が広げた富の格差

01.12.2019

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 米国連邦準備制度理事会(FRB)が2008年11月に初めて量的金融緩和政策を実施してから11年。その間、金融緩和政策は株式や債券などあらゆる投資商品のバブルをつくりだした。

 

FRBは「景気拡大が順調に続くように適切に行動していく」として今年は政策金利を3度引き下げ、9月から再び資金調達市場に流動性を注入した。 バランスシートは債券買い入れで11月30日時点には2,920億ドル拡大している。その結果、主要3株価指数は過去最高値の更新を続けている。

 金融緩和政策(QE3)を実施中の2013年に、ヘッジファンドマネージャーで個人純資産が当時20億ドルのスタンリー・ドラッケンミラー氏は、FRB のQE政策は「中・低所得層から富裕層への最大の富の再分配」であると提唱して注目を集めた。株価が上がれば、彼自身を含む資産家の投資家が持つ株や他の金融資産の価値が上がり、資産が増える一方、中・低所得層のさらなる富の減少や低所得化が進むと考えていた。

 確かに、ドラッケンミラー氏が指摘した通り、QEによる株式の上昇は富裕層の富を拡大させた。それには、純資産上位0.1%の最富裕層は株式全体の17%、上位1.0
は33の株式を保有し、純資産上位10パーセンタイル層でみると、個人ファンド、ベンチャーキャピタルファンド、投資信託などを通じて株式全体の約92%の株式を保有しているからである。そのため、QE効果で上昇した株価の恩恵を最も受けたのは上位10パーセンタイルの富裕層となる。

 

 

 FRBが実施したQE政策は、富を増やした富裕層が得た富を活用して雇用の創出また新たな投資により経済活動が活性化される、いわゆる「トリクルダウン効果」があると考えられていた。しかし、QEを実施してから、その効果はなく、富裕層の富が増え、純資産50-90パーセンタイルとほとんど株式を持たない下位50パーセンタイルに位置する層の資産は減少し、格差が深刻化する要因となった。

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 FRBは金融緩和政策で株価を上昇させたことで、富の格差は拡大、市場での価格発見が機能しなくなり、本来の市場取引のメカニズムを壊した結果となった。